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  • 読書における心的作用について

  • (10)文章理解と挿絵

文脈ないし文脈効果は、絵と文の間にも成立します。
まず、次の文書例を読んでください。

    たとえ風船が歌をかなでたとしても、その音はお目あての階に届かないかもしれない。
    なにしろすべてがあまりにも遠すぎるから。
    建物にはたいてい遮断効果があるので、もし窓がしまっていたらおじゃんである。
    うまくゆくか否かは、電流が安定して流れるか否かにかかっているため、電線の途中の切れ目も問題を起こすだろう。
    もちろんこの男は大声で叫ぶこともできる。
    しかし、人間の声はそんなに遠くに届くほど強くはない。
    もう一つの問題は楽器の弦が切れるかもしれないということだ。
    もしそうなると、思いのたけを伝えるのに伴奏なしでやらなければならない。
    距離が近いことが一番良いのは明らかである。
    そうなるとやっかいな問題はほとんど起こらないだろう。
    会って語りあえば、まずいことはまったく起こらないだろうに。

この文章を読んで、内容が理解されたでしょうか?
私たちの教室で実験しても、ほとんどの人がわからなかった、と言います。
以前この文章を20名の受講生に同時に見せ、その後、内容につき自由討論をしてもらったことがあります。
実に楽しい”読み方”が報告されました。
中には「人生の哲学を風船になぞらえ、説いたもの」と言う、真面目な受講生もおりました。

この文章は、ブランスフォードとジョンソンによって示された「散文の理解における文脈効果の実験例」として有名で、その一つを引用したものです。

そこで、上の文章が分からなかった方は、こちら(ページ下)にある絵を見てください。
その絵で文章の内容が一目瞭然となるはずです。

ブランフォード等の実験でも、文章を読む前に絵を見せられた人は、文章の内容を理解できたが、そうでない人は、ほとんど文章の内容が理解できなかったと報告されています。

以上は、絵による文脈効果を分かり易くするため、あえて極端な例を示したのですが、一般の読書でも、多少とも、同様のことが言えます。

近頃、絵、写真、図表等が入った本が、書店を飾っているのは、理由があってのことです。
理解力トレーニングで、挿絵などにも注意を払うように、と述べているのは、その文脈効果を考えるからです。

速読は、文字を絵のように見るとの主張があり、それが文字通りの主張だとすると正しくありませんが、絵の文脈効果を借りて、文章理解の助けとするというのであれば、それはまさに望ましいことと言えます。

もっとも、読書との関係で、絵や図形を過大評価されても困ります。
そればかりか、思考、意思、イメージ等の伝達機能として、絵等は一定の限界があり(文字、言語にもありますが)それゆえに警戒を要する場合があります。

その要点のみ述べておきます。

まず思考やイメージを絵に託して表現すること自体の限界です。
確かに絵による表現は感性的で映像としても直接的なため、言葉による概念の表現と異なり、一見、筆者に思考・イメージ等を直接表現するように思われがちです。
しかし「絵」などは筆者の思考等を、直接実在化したものといい難い面があります。

絵などは「物」としての特性を保持しながら、なお筆者の表現物である結果、見る人をして筆者が抱いた思考等にせまる手掛かりを与えるに過ぎません。
つまり、J・P・サルトルも言っておりますが、物質的類同代理物(アナロゴン)を構成するに過ぎないと言えるからです。

ブランスフォードとジョンソンによって示された「散文の理解における文脈効果の実験例」

次は、絵や図形の説明としての限界です。
言語による概念が、歴史的社会的に形成された約束として、その周辺部分はともかく、中心部分では、一応は一義的に定まっているのに対し、絵などには、そのような「拘束性」がありません。
このことで、絵による、思考、意思等の伝達は、自由性では優れる反面、不確実の欠点も伴うことになります。

この後者によって、しばしば意思伝達の錯誤が生じることがあり、 また広告等に悪用されるのも、日常垣間見るところです。

さらに絵などは、前述の通り、筆者の思考、イメージ等を直接表現するものとして、優れた手法と考えられがちですが、絵などは、意味を伝える記号価値の他に、画像とか映像として、見る人をして、物質的注意を、ひきつける作用があるため(文字はそのような作用が皆無とは言わないが少ない)、純粋の記号的価値は、文字、言語に比べ、低いといわなくてはなりません。

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